作成:2001・06・15

お断り:恐縮ですが、個人的な感想と独断です。


SMCタクマー 35mmF2 の思い出


望遠レンズ級の全長

 2000年7月に出張して中野の有名な中古カメラ屋さんを覗いてみた時のことです。ショーケースに5〜6本のSMCタクマー35mmF2が陳列してありました。プライスタグには全て「レンズヤケ」ありの表示がしてあります。カメオタ用語の「レンズヤケ」とは琥珀色や黄色になっていく現象だったとは思ったのですが、そんな悲しいことがあるのかとびっくりしました。残念なことですが、ある種の硝材の「レンズヤケ」が時間とともに徐々に進行するのは回避できないようです。おそらく、「レンズヤケ」していないSMCタクマー35mmF2は、もう存在していないようです。
 このレンズは、あまり言いたくない秘密があります。それは、絞りが粘って不調だが光学系がとても良好なものと、鏡胴がきれいで絞りが壊れていなく光学系が並のものをニコイチしてしまったのです。それぞれは、それなりに充分撮影に使えたのですが、「レンズヤケ」の程度の僅かな差もありましたが、ニコイチの誘惑に負けてしまたのです。
 どちらもネットオークションで譲って頂いたのですが、前者がフード付きで合計しても中古カメラ屋さんで買うよりはお得な値段でした。

 

 SMCタクマー 35mmF2 の印象

 実のところ35mmF2は、ついこの間まで結構バブリーな中古価格で手が出せかった憧れの大口径広角レンズだったのです。描写はやはり思った通りです。開放から無理に鮮明で硬い絵作りをするレンズではありませんでした。開放では、抜けの良さをあまり実感できませんが、周辺光量はまずまずです。もちろん、小絞りならば、それなりに強烈で硬い印象の写真をとることも出来ます。
 このレンズの長さには笑っちゃいました。105mmF2.8より10mm短いのですが、85mmとはいい勝負です。
 最短撮影距離は40cmと多少不満です。好きな物とか好きな光景を、豊かな諧調の写真として残すのに良いレンズだと思います。

 

 系譜

 SMCタクマー35mmF2は、68年9月登場のSタクマー35mmF2を手直ししたSMCモデルです。Kマウントの35mmF2は新設計ですが、寸法はほぼ同じです。
 新型Sタクマー35mmF2発売時のセールスポイントは小型・軽量化と性能向上です。なにしろ旧型のSタクマー35mmF2は、フィルタ径は67mm(70mmかぶせ式)の横綱サイズだったのです。

 

 その他

 角型フードを付けなければ、広角レンズには見えません。ただし、この角型フードは28mmF3.5用と違ってネジ込みで、ネジの部分とフード本体に遊びがあって、フードがケラれないよう位置決めして使います。(ねじ込んでから、フードだけを動かして位置を合わせます。約120度フリーに回ります)
 偏光フィルタを使うのには困るなぁと思っていたのですが、この時代のアサヒ純正の偏光フィルタを頂戴して疑問が氷解しました。フィルタ枠は回りません、中のガラスが回るのです。「でもねぇ、こんなもの」というのが、率直な感想です。事実、このフードのネジ山は全然使った形跡がありませんでした。

 アサヒカメラの「ニューフェイス診断室」でESIIとこのレンズが評価されていますが、高屈折率の硝材がアンバーなのをコーテングで補正している旨の記述があります。もうこの時代は、交換レンズのカラーバランスはが揃っていることが要求されていました。
 しかし、今になってこのレンズは独特の黄色味に偏った発色をするということを書いた記事を見かけることがあります。とんでもない常識が定着しないか心配ですが、世の賢明なカメオタにそんな話は通じません。中古レンズとしては「レンズヤケ有リマス」として適価で売られるようになり、一時期の半値以下の値段になったようですし、ジャンク価格で処分してしまうお店もあるようです。

 

追加のページがあります → ここ
気になる 前期型 スーパータクマー 35mmF2

 


[レンズヤケに関するメモ]
 光学ガラスの専門家と我々カメオタの云う「ヤケ」には、用語の認識に多少ズレがあります。専門家のいう「ヤケ」は、「白ヤケ」や「青ヤケ」というのがあるようです。「白ヤケ」というのは、「水ヤケ」とも云うようで、結露した水滴などによりガラスの表面が侵されて白濁する現象で、ガラスの成分が析出したり、酸化物によってガラス表面が白濁するようです。これは、カメオタは「クモリ」と云ってます。青ヤケというのは、ガラスの成分が再結晶して表面の屈折率、反射率が変化するような変質で色が付いて見える現象を云うそうです。ちょうどコーテングの色の変色や、色付きのハーフミラーのように見えます。カメオタの用語にはこの現象を的確に表現するものはないようです。

 カメオタの云う「ヤケ」は、屈折率の高いガラスが、年々黄色や琥珀色に着色してゆくことで、専門家は「ソラリゼーション」または「色中心(Color Center)」と呼んでいるそうです。これは、ガラス内部の陰イオンが空の場所と、その場所に拘束された電子とから成る格子欠陥によって生じるのだそうです。 ・・・私にはちんぷんかんぷんです(^^ゞ・・・ これは、X線(ガンマ線)だけでなく、紫外線でも加速されるようです。

 前者はレンズを結露させたり、カビさせなければ防げそうですが、後者はどうも避けられない現象のようです。レンズヤケというと、張り合わせレンズの接着剤の着色も考えられますので、写真機用のレンズを外から覗いただけでは、その現象を的確に判断することは難しいことも事実です。高級なレンズなら、再研磨・再コーテングや、レンズエレメントの交換とかの道があるようですが、ペンタックスの古いレンズでは、悲しい現実はどうする術もありません。尚、レンズの中に部分的なハーフミラーのようなものが出来てしまう現象は、接着剤の剥がれ、いわゆる「バルサム剥がれ」「バルサム切れ」のことが多いようです。

 私は「レンズヤケ」の具合はライトボックスの上に、フィルタと一緒に並べて判断するようにしています。この35mmF2はやはり色が付いています。スカイライトフィルタより幾分濃いいう程度です。新品レンズでスカイライトフィルタより濃い色が付いていたらこの時代でも不良品ですが、未練があるので曇天用フィルタの濃さまでは良しとせざる得ません。軽度ならネガフィルムで使う分には、あまり関係のないことです。




 

   

 更新日 :2018・12・24.
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