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SP [Product No. 23102]

検結果と修繕内容の詳細


露出計の点検・手入れ
詳細は  に示します


入手の経緯
この使い込まれたSPは、標準のSタクマー50mmf1.4の他、SMCマクロタクマー50mmf4付きでネットオークションで譲って頂いたものです。お目当ては、程度の良さそうなSMCマクロタクマー50mmf4で、こちらは期待通りの美品でした。
このSPは使用に耐えないので、修理に挑戦してみて下さいという、譲って下さった方の言葉もあり、リペアマニュアルの教材として活用させて頂くことにしましたが、なかなかトップカバーがあきません。
また、標準のSタクマー50mmf1.4は、写真が撮れないというほどではないにしろ盛大にカビがあります。加えて、レンズヤケも進行しています。鏡胴がきれいなだけに、迷った末に清掃しました。若干の擦り傷、ホコリはありますが、カビはきれいになりました。その分黄色いレンズヤケがはっきりしてしまいました。


部品が磨耗するといっても、鋼製の小さなコロが磨り減っていたのは驚きです。
このSPは、どれだけ働き続けたのでしょう。
最後は、注油されながら使われていたようです。
きっと道具として本望でしょう。機内は壮絶な状態です。

☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆ 下へつづく ☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆

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開放前点検・カバー類を外しての点検


 1.障害個所の点検結果と復旧の見込み
障害−0:トップカバーが外せない
隘路となったのは、フィルムカウンターの台を締めているリング状のナットです。このナットの引っ掛りの溝がナメてしまっている上、かなりきつく締められています。ESIIを開ける為に加工した自慢のラチェットで挑んだところ、引っ掛りの溝が殆ど無くなってしまいました。
何をするにもトップカバーが外せないと話になりません。


ステンレス製のナットなので、ネジ山が伸びて噛んでしまっているようです。思案の末、このナットは切らざる得ないと判断しました。復旧用のナットは部品取りのESIIから頂きます。
(このナットは、シリアルNoの新しいものは逆ネジですが、
 古いものは順ネジのようです)

障害−1:ミラーが戻らない
レンズを外して、マウントから覗いてみると、ミラーが戻らない原因はすぐに判りました。
ミラーの動作をレンズの絞り込み機構に伝達するアクチュエータ部のコロとカムが磨耗しており、コロがカムに乗り上げてしまいミラーが復元しないのです。
このアクチュエータ部の動きを0.25mmほど制限すると、オリジナルのシャッター音でミラーは戻ります。また、清掃して注油してみると結構効果はありますが、レンズを付けると戻りません。

ミラーの戻り不良に対しては、まず、部品を交換するのが定石ですが、このカムを手ヤスリで再生するのはおっくうです。奇策としては、
(1)磨耗して表面の荒れたローラを熱収縮チューブで覆ってしまう。
(2)薄板をミラーボックスに貼り付け、アクチュエータを衝突させて動きを制限する。
ただし、これらの耐久性となるとちょっと疑問ですので、開放してみて他の方法を考えます。
 
障害−2:ファインダーの汚れ
ファインダーを覗くと、著しく汚れています。スクリーンへの潤滑油の飛散しコンデンサレンズとフレネルレンズの間に浸入しています。また、カビとゴミもスゴイものがあります。
おそらく、ミラーが戻らないので、問題個所に潤滑油を注油した際に飛散し浸透した油でしょう。
 

ファインダーの汚れは、分解して洗うことが先決です。ピントの精度とかは、その次の課題とします。
尚、年式を経ているのにプリズム腐蝕は無いようで、その防止策の観点から興味があるところです。
障害−3:絞込み/電源スイッチのレバーが渋い
SPの場合、絞込み/電源スイッチのレバーは、シャッターが切れた後に復元するはずですが、1〜2回シャッターを切らないと戻りません。操作感も渋くてちょっとまともではありません。
 

前板を外してみて、問題を点検してからの話です。戻りスプリングが切れかかっているとか、部品が擦っているとかが考えられます。
障害−4:露出計が不動に近い
メータは、テスタであたると動くので断線はしていません。
指定の水銀電池(H-B)は入手困難です。手持ちの都合で、とりあえず、ちょっと厚めで電圧も高いLR43を使って確認を進めます。
不可解なことですが、指針の動きが逆(と、その時は思い込んでいました)で、バッテリチェックも針が上に振り切れます。露出の指示も動いたり動かなかったりと不安定です。よく観察したら、このメーターはマイナス側へ振れることはありません。
 

完動品を使うなら高価でも電池アダプターが一般的です。(このSPの場合、電池室は、底フタにスポット溶接で付けられています)
せっかく、開放するのですから、アルカリボタン電池で適正露出が得られるよう調整してしまいます。最終的には、サイズ的にぴったりの LR1130(しかし、正負の極性がH-Bとは逆)を使います。
不調は、CdS受光素子や擦動抵抗がどうなっているかは開放してみての話です。
 2.その他の点検結果と対処の方針
(1) 吊具の一方が無くなっています。巻き上げレバーのゼンマイを留めているポストを兼ねている吊金具を止めるビスが、折損しているようです。 部品取りのESIIから移すことにします。残っているSPのオリジナルのものとデザインが異なるので、2つとも移すことになります。ただし、ESIIのビスはそのまま使えません。
(2) フィルムカウンタの目盛盤を押さえるビスが折損していました。残ったネジ部も取れません。
これは、分解時の不手際で僅かな力でも折損してしまうものです。
このネジは逆ネジなので、他からの部品取りとなります。部品取りのESIIのネジも折損してしまい、手持ちはありません。
(3) 電池室フタに錆びが発生していて、汚れており、フタの開け閉めがたいへん渋い状況です。 フタのネジ山の清掃と錆び落としが必要です。
(4) スローシャッターやセルフタイマーのガバナ音は、幾分大きいが鳴きがひどいというほどではありません。 可能なら、スローガバナ、セルフタイマガバナに注油をしてみます。
(5) 消耗品
   遮光材(モルトプレン)、張り革
消耗品
   裏フタ遮光用モルトプレンは現状とします。
   ミラークッション用モルトプレンは交換します。
   合成革は、再使用します。
 3.点検した結果
5ヶ月ほど思案した結果、どうしても、プリズム腐蝕がないのかを見なくてはなりません。そのためには開けなければなりません。お約束です。開けたのなら、何とか修理に挑戦しなければなりません。
 ・ とにかく、トップカバーを開けなければなりません。
 ・ 絞込み機構をミラーボックスへ取り付けている部分の塗装を剥がし、可能な限りずらして再取付けしました。
 ・ どれだけきれいになるか判りませんが、ファインダーの清掃は、分解して洗剤で洗ってみました。
 ・ 絞込み/電源スイッチのレバーが渋いのは、グリスがきれていたためでした。
 ・ かなり、迷走しましたが、露出計の手入れをしました。
   → 以上の詳細は、下記の修繕の内容と結果に示します。
 4.その他美観の問題点と対処の方針
(1) 外観上は、上カバー頂部に小さな打ち傷があります。
上下カバーともスレと汚れが著しいです。
しかし、ボデーの塗装、張り革、操作ダイアルなどは、錆びと汚れを落とすと比較的きれいな状態です。
美観に関しての手入れは、清掃のみとして今回は見送ります。
(2) シャッター膜はカビなどですこし汚れています。
幕速はしっかりしているようで、高速はストロボを点灯して見ただけですが問題ないようです。低速ガバナは少し遅いかもしれません。
使用上はシャッターは問題なしと判断しました。
(3) ミラーは、油や、劣化したモルトプレンで汚れています。 若干、引っかき傷がありますが、目立たないものです。
汚れは清掃ににより、かなりきれいになります。
使用上は問題ありません。
 5.備考
このSPのProduct No. 23102 は、底カバーに目立たぬように刻印してあります。付属していた標準レンズのProduct No. と併せて考えると1966年出荷の製品と思われます。
SPのProduct No.上はこの他に、このSPより古い231、23100と、新しい23104があります。

☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆ 下へつづく ☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆

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修繕の内容と結果


 1.障害個所の修繕

このSPの場合のみ対策であり、どのSPもこの通りではありません。

(1) トップカバーの開放
ピンバイスの先にリューダー用ダイアモンド研石を付けて、半日がかりでナットを切りました。
砥石のほうも、ダメージを被り、ひとつはツルツルに、ひとつは曲がってしまいました。
半年以上(8月13日)も気づかずにいたのですが、このナットは、シリアルNoの新しいものは逆ネジですが、古いものは順ネジということを知らなかったのです。しかし、逆ネジのESIIのナットがそのまま使えてしまうから不思議です。そう云えばなんとなく渋かったような気がします。(ご指摘くださったHIROさんありがとうございます)

 

 

 

上:切断後の巻き上げレバー軸のナット
  このナットも逆ネジです。

下:切断に使用したダイアモンド砥石
  これをピンバイスに付けて、地道に
  削り切断しました。

(2) ミラー復元不調対策
擦り減ってしまった、絞りレバーのカムやコロを交換するために部品取りのSPを入手するのも不経済です。とりあえずの対策ですが、絞りレバーを外してみて、取付けは多少ルーズなので、次のようにすることにしました。
(1)ミラーボックス側のビス穴回りの塗装を剥がしました。
(2)絞りレバー側のビス穴の中も手ヤスリで少し削りました。
(3)コロがカムに乗り上げにくいように、出来るだけ、左上にずらして再取り付けしました。

この対策はごまかしですから、このカムやコロがまた磨耗すれば、この障害は再発します。ただし、それが、何本のフィルムを撮影すれば再発するのかはわかりません。
次に再発した場合は、これらは磨耗していないものと交換したいところです。


(3) ファインダーの清掃
プリズムの保護塗料を侵す前にゴム糊が硬化したようで、メッキ面の保護塗料は健在で、プリズム腐蝕が発生していません。
(1)この古いSPは黒い普通のモルトプレンを使っていました。
(2)プリズムに直接貼っていますが、ゴム糊は硬化しておりベトベトしていません。
(3)モルトプレンをフィルムで裏打ちせずに貼り付けてあり、ゴム糊がすぐに硬化したようです。

スクリーンの清掃は、フレネルレンズ、コンデンサーレンズ、アイピース、プリズムを洗剤で洗いました。しかし、仔細に見れば、フレネルレンズの溝の中の油汚れは完全に取れていませんし、キズもありますし、小さなゴミがいくつか残ってとれません。レンズを付けず光にかざして覗いてみれば、きれいとはいえませんが、レンズをつければ目立ちませんので、これで、可とします。
なるべく、フレネルレンズはきれいなものに交換したいところです。

なお、ファインダーブロックの組立てにあたっては、発泡ポリエチレンシート(食器棚などに敷くシート)を使いました。両面テープは反射面には使わないようにしました。
別ページの「ファインダーブロックの若返り」(準備中)に詳細を示します。

(4) 露出計の点検・手入れ

 

 

詳細は
ここ
に示します

もそーっと動くメーターですが、動くと電源を切ってもなかなか戻りません。できれば、アルカリボタン電池を使って調整して、露出がそこそこ測れる程度にならないものかと思っていました。
メーターのリード線のハンダ付けが逆と早とちりしてしまったことと、このメーターそのものもマイナス側へ振れることはありません。これを正常にするにはどうしたら良いのだろうと手を入れた始めたら迷走が始まりました。

← 詳細は別ページにまとめました。

始めたら、完成させるか、不動のメーターで諦めるか後に引けない状況になってしまいましが、なんとか、メータは気持ちよく動くようになりました。
しかしながら、この次に不調になった際はメーターと調整用半固定抵抗は良品に交換したいところです。

(5) 絞込み/電源スイッチレバーの給油

 ここの擦り板がグリス切れしているようです。マジシャンオイルで硬化したグリスを溶かし、少しミニ四駆用のグリスを補給しました。

 たいへん良い結果が得られました。

 詳細は、この画像は拡大してみてください。
(6) 吊金具の交換
残っていた吊金具のビスも他愛もなく折損してしまいました。破断面をみると既に2/3が破断していて錆びていました。どちらも、同じものに換えようとしなければ気づきませんでした。
留めビスは、できればSP用のものに交換したいところです。

 

 左:SPオリジナルのもの

 右:交換したESII のもの

 折損したビスは、ESII と互換性がありません。巻き上げ軸側は、そのまま使うと頭がつかえてトップカバーが付きませんので、2mmほど削りました。巻き戻し軸側は、普通の皿ネジです。
 オリジナルと異なってしまって、ちょっと残念です。

(7) メイクアップ 張り革は、ゴム糊ではなく、両面テープで復旧しました。
(詳細は、ESIIの修繕のメイクアップのページを参照して下さい)
オリジナルに忠実にゴム糊を使って貼るのは、まだ私の修行が足りず、自身がないからです。

このSPの状態からは、タッチアップは行わず、大切に使われた古いSPという趣を残すよう、清掃だけは念入りに行いました。

ペンタックスの思い出に、このSPを追加しました。その晴れ姿をみてください。

 5.備考
(3)ファインダーの清掃と(4)露出計の点検・手入れは、同じ場所なので、平行して作業しました。
露出計は幸いにもアルカリボタン電池を使って調整が可能でした。問題は寸法・形状ですが、ヒタチ・マクセル製のLR1130(JIS:LR54)を買ってきたところぴったりと納まりました。今日(1月15日)まで、H-Bが現在のボタン電池と極性が逆なのに気づかずにいたとは。
でも、欲しいなーSP用の電池アダプター。

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 作成日 : 2001・01・14.
 更新日 : 2003・02・17.