作成:2002・02・22





「幕内昇格したいと」とこのSP-Fは云っています。

 学生のころだったのですが、友だちと旅行に行く機会がありました。「親が、一眼レフを買ったから持ってゆく」と云います。ペンタックスだというので、SP-Fかなぁと思っていたら、持って来たのはSPIIでした。私にはSP-Fとは、特にこれといった古い思い出はありません。

 確かに、ESの登場は技術的にも価格にも驚かされましたしが、SP-Fは発売されても、正直言って、興味のそそられるカメラではありませんでした。もう国内では、Sマウントの一眼レフそのものが時代遅れだったのです。キャップを外すと露出計のスイッチが入るというのですが「アホらしい」と思いました。当時の私は、時代遅れのPマウントのレンズを使うなら、ボディはヤシカFFT(結局、買そびれました)で充分で、SP-Fは無駄遣いとしか思えませんでした。

 このSP-Fは使おうと思って求めたのではありません。ESIIに関連した教材として譲って頂いたったのです。でも、多少くたびれているのですが、ちょっと程度が良すぎて教材には適しません。教材用は別に入手することにして、手入れをして使うことにしました。手入れはファインダーの清掃と不安定な露出計の点検をしました。
 レリーズのロックが効かないというのが唯一の不具合で、ロックレバーのスチールボール、バネ、押さえネジが紛失していました。SP-Fの部品取りからこれらを移してやればよいのですが、ついイタズラ心から、ロックレバーをESIIのものに替えました。
 さらに、ノンオリジナルにした点がもうひとつあります。SMCタクマーレンズを装着した場合には、露出計は開放でも絞り込んでも測れるようにしました。(参照

 私という人間は我がままだと思います。レンズ交換に手間取るし、ファインダーは暗いし、携行には重いと云いながら、フィルムを巻き戻す時には、どのように写っているかうきうき気分です。巻き戻す前に裏フタを開けてしまうことも年に一度ぐらいあります。 ・・・ SMCタクマーレンズの素直な描写をモノにでる被写体に出会った時の話ですが。

 ちょっとテクニカルな話題になってしまい恐縮です。最近、SP-Fは見かけの古さとは裏腹に、当時の一眼レフとしては、ずい分と思い切った機構が採用されているのに気づきました。

 レンズを付けたSP-Fの外観は、ビスの位置とか電池室の蓋とかは目立たない部分こそ違いますが、SPIIとまったく同じです。もちろん、SMCタクマーレンズを装着した時は開放測光が出来ます。そして、開放測光のメカニズムには、先行のSRT101やニコマートとは違った新しさがあります。
 絞りリングの変化を大きな擦動抵抗に直接つないだことと、CdSで測光した値とシャッター速度や絞りの露光条件を、コイルを2重に巻いた差動電流計で直接比較します。ですから、定点合わせなのにメータを固定してしまうことが可能で、可動部品の連結糸を調整する手間を省くことが出来ました。
 また、測光用のCdSは、面積の大きなものを採用して、暗い時の測光の応答の悪さ、指針の「よいしょどっこいしょ」状態を、充分実用になるレベルまで改善しています。

 フォトスイッチは電池の消耗が問題になるので、電池をH-BからH-Dに変更しています。フォトスイッチの受光素子のためにプリズムの形状も変更しています。この、SP-Fのプリズムは、国内向けのSPIIと共用化されています。

 SPの生産期間は約10年間で、110万番台と400万番のSPを比較すると、ボディを構成する部品の質はずい分と良いものになっています。ビスも(+)ネジで作業性も良くなっているのですが、反面、組立作業がすこし雑になっています。SP-Fはこの時代の製品です。
 SP-Fそのものは、3年と短命でしたが、Kマウント化されたKMは、SP-Fからかなりの部品を受け継いでおり、Kマウント用のミラーボックスと露出計回路を載せ替えて作られたとさえ云われています。KMからセルフタイマーを省略したK1000は、国外で1997年ごろまでずっと生産されました。K1000が実用的な名機として長寿であった理由は、SP-Fの構想の正しさの証明と考えれば感慨深いものがあります。

 残念ながら、マウントの中に開放測光用の連動爪があるESIIもSP-Fも、Pマウントレンズの普遍的なプラットフォームとしては適さない場合があります。そのような用途では、SPIIが好都合ですし、絞込み測光をいとわなければSP-Fは不要です。
 これはSPのバリエーションモデル全てに云えることですが、ファインダーの暗さに耐えられない、シャッター速度は1/2000(シンクロ1/125)までないともの足りない、平均測光では露出が当たらないといったとことが世のM42マウント愛好家の不満のようです。この不満には、如実に世代が現れていて面白いと思います。この中で、アップデートが出来ることはファインダーを明るくすることだけですが、それでも素人には大工事になります。
 従ってSP-Fにも、ちょっとスパルタンな(野蛮な)ファインダーと4軸の布幕シャッターの得失がそのまま踏襲されています。SMCタクマーレンズの描写を楽しむのであれば、開放測光なので、真っ暗なファインダーを測光のたびに見る必要はありません。のんびりと撮りましょう。

 


 昨年のことですが、大学を卒業してまもない若い女性からメールを頂きました。お父様から頂いたSP-Fを「どーん」と落として壊してしまったが、直せないのかというご相談でした。SP-Fを娘に使えというのもけっこうスパルタな親だと思いますが、自分で修理というのはもっと酷。中古価格と修理費の損得ではないようなので、長谷川工作所さんで直してもらうことをお奨めしました。躾の良さがうかがえるお嬢さんでした。

 ミラーボックスは、SPやSPIIとは違いESやESIIと同じ昇降メカニズムです。絞込みスイッチがシャッターを切っても戻らないと不調を相談を頂いたことがありましたが、もともと、ミラーが昇降しても絞込みスイッチを解除しません。また、SMCタクマーレンズを装着した時、露出計は開放測光と絞込み測光で違う値を示すという現象に関しては「SP-Fの露出計に関する知見」にも書きましたが故障ではありません。

 SP-Fの露出計は、はっきり云って基板の設計も良くないのですが、ハンダ付けと整線も下手で、高級機種のESの組み立てとは雲泥の差があります。

 SP-FのFはフルアパチャーのFでが、SPFとは動物のspecific pathogen-free(SPF)基準のことで、今の私には多少なじみのある言葉です。 ・・・関係ないか ・・・






 更新日 :2002・02・24.