いつもヤボなことを言って恐縮ですが、カメラの分解は自己責任でお願い致します。



シャッターの組み立てのポイント

 今回、教材としたS3は、生産初期のもので、ギアメカニズムはステンレス製部品が多用されていますし、ミラー昇降・自動絞り機構も無骨なタイプです。

 よくムック本などでS3とS2(後期型)やS2スーパーの細かな違いとかを解説するナンセンスな記事がありますが、実際は同じ時代に作られたものは、部品の共用化が図られており中身は同じです。
 そんな記事を真に受けて受け売りするのはミーハーというものです。底ふたや前板を外して、観察すると生産された時期が ・ ・ ・ 判ってどうするということもないのですが ・ ・ ・ さておき、本題にはいりましょう。


 今回のシャッター幕作成と交換に関しては、既に掲載している「はじめてのKのお手入れ」の「シャッター幕の交換」と記載内容が重複しないよう説明しておりますので、興味のある方は、そちらのページをご参照ください。

 ここで説明する幕の交換方法は、ギアメカニズムも分解して、幕を交換して、組立てる方法です。S2以降のモデルでは、1軸非回転のシャッターダイアルになっており、APやKよりもメカニズムは複雑になりますが、1軸非回転のシャッターダイアルの仕組みは、時期によって細かな違いはありますがSVまで基本的に同じです。

 シャッター幕の作成と幕を貼るところは省略して、1軸非回転のシャッターダイアルの原理の復習ということで、S2からSVまで応用が可能なシャッターを組み立て方のポイントとしてまとめました。





 1.  着手前準備

1.1

1)ガバナと連動(大)ギアは外す。

2)ミラーチャージレバーは上部の巻上げギア(下)を回して
  最下に送っておく。

3)シンクロ接点のリリースロッドには当てるだけ。

清掃して、このへんから組み立てる。
パーツは充分清掃して手入れしておく。

 2.  第1段階

2.1

1)後幕を位置決めして後幕の大小ギアをかみ合わせる。

2)先幕を位置決めして先幕の大小ギアをかみ合わせる。
  合印をマークして先幕の大ギアを外す。

3)逆転防止フックがひっかかる位置で、スピルギア(下)とキーを
  セットする。

4)アイドルギアをセット

2.2

5)スピルギア(上)とキーをセットしてスピル部分を組み
  立てる。→

6)レリーズロッドを仮組する。→

7)後幕は巻上げ、先幕は開放状態にする。
 (大ギア同士の突起の噛み合いが逆にならないようにするため)
  先幕の大小ギアを合印の位置にセットする。

8)ストッパーの取り付ける。

2.3

9)先幕、後幕ともテンションを少し掛けて確認
  巻き上げギア(上)を仮にセットして、レバーを乗せ巻上げる。
  レリーズしてみる。
  2度目の巻上げとレリーズが可能であること。
  不可であれば、その原因を確認してやり直す。

[確認項目]
 巻上げできること。
 巻き上げ中の後幕と先幕のスリット金物の重なり合いと巻上げ
 完了
 位置が意図したとおりであること。
 レリーズしてバルブ状態でシャッター幕が走ること。
 後幕と先幕のスリット金物の位置がもとに戻ること。

 3.  第2段階

3.1

10)調速機構を組み立てる。
  偏芯カム、スローガバナのリンクロッド、シャッターダイアル
  ベースを取り付る。

  B位置になるように組み立てる。
  (B位置にするためのポイントは下の写真の矢印部分)



  
スローガバナのリンクロッドとシャッターダイアルベースのカム(左)と偏芯カムと押さえの噛み合い(右)

3.2

11)ガバナの取り付け
  シャッターダイアルベースを回して、1秒かT位置にする。
  ガバナをリンクロッドにかみ合わせて取り付ける。

巻上げて、連動(大)ギアの突起をリンクロッドに当てて取り付ける。(右)

3.3

12)レリーズしてみて、動作を確認する。
  不可であれば、その原因を確認してやり直す。

[確認項目]
 1秒からスローシャッターが段階的に変わるか。
 Bではレリーズを離すと正常に閉じるか。
 Tでは開いたままになるか。

3.4

13)その他
  B位置にて、クリックストッパーを取り付ける。
  巻上げインジケータを取り付ける。

 

 4.  調整

4.1

14)テンション調整
 後幕にオリジナルの巻き数でテンションを掛ける。
 それに対応した先幕のテンションとする。

1/500秒までは順調に行くと思います。問題は1/1000秒で、見極め
が難しいだけでなく、隅の一部が暗くなったりして悩みます。
その場合、スピルギアや偏芯カムと蹴っとばしなどを手入れすると効果があることが多いようですが、説明が難かしいので省略します。


ちらつきなどのない面光源の前でシャッターを切ります。
1/60秒から順に、シャッターが開くか、左右でムラが生じないか確認しながら先幕の テンションを上げてゆく。
1/1000秒まで上げてムラが生じなければ成功。

4.2

15)シンクロ接点取り付け
  ミラーボックスを取り付け、巻上げ状態で、ギアと接点を取り付ける。
  シャッターを切って接点が閉じられることを確認する。

・接点の取り付けは、先幕が開ききった位置で接点が閉じること。
・ギアの噛み合い位置で調整し、微調整は接点をひねって修正。

    



「はじめてのKのお手入れ」でも記載したように、ここでは第1段階の組立て作業中の各パーツの位置決めが、操作感にたいへん影響します。




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追伸 : どうやってテンションの巻き数を知るか?

 後幕のテンション軸に手芸や裁縫で使う布テープをガムテープなどでリボンの貼り付け位置に止めます。巻上げ位置、開放位置を布テープにマークします。巻上げてリボンを剥がし、布テープを巻き取らせます。
 先幕のテンション軸にも同じように布テープを巻き取らせて図りますが、布テープの貼り方によってはプラス1巻きとなります。
 後幕メインで計っておきましょう。後幕のテンション軸にリボンを貼るときに布テープを引っぱて、貼り付け位置を出すと、手間いらずです。

追伸 : SP以降は

基本的にはSP以降KMやK1000まで同じシャッターです。それまでと巻上げ軸が逆になっており、先幕と後幕の対称性を高めてリボンも平ひもになっています。スローガバナの制御も高等で複雑になっています。

SPはボディ全体が新設計で、巻上げもラチェット巻上げが可能になっていますし、ミラーボックスの昇降・絞込み機構、シンクロ接点、裏ふたの開閉機構と、部品もそれまでのものと一新されています。かろうじて互換性があるのはプリズムぐらいしかありません。

余談ですが、APは、アサヒフレックスIIを元に生まれました。そして、APからSVまでの進歩は、1軸非回転シャッターダイアルの採用、半自動絞り採用から完全自動絞りへの改良、自動復元カウンターの採用、セルフタイマー内蔵と、それなりの設計変更の積重ねです。
ですから、アサヒフレックスにS2のマウントを付ける(ちょっと削るところがあるそうです)とか、APにS3の自動絞りのミラーボックスをくっ付ける(シンクロが使えなくなります)とかが出来るのです。

このような進歩もいいですね。

今回の反省 → ここ