作成:2003・04・03



ハイマチックF用シャッター【セイコーESF】の考察

 ハイマチックFに関して、常々疑問に思っていたことを解明することにしました。ひとつは、その軽さの秘密です。もうひとつは、このシャッターが諸先輩方に嫌われている理由です。

 なんで、こんなに軽いのという疑問は、裏フタを開けてすぐ判りました。プラスチックボデーです。

 軽くて小さなボデー、プログラムシャッターとフラッシュマチック、しかし、ファインダーはゾーンフォーカスでなく2重象合致式です。同じようなコンセプトのカメラとしては、ジャーニーコニカがビッグネームですが、ハイマチックFもよく売れたようです。ジャーニーコニカもプラボデーで、同じようなサイズと重量です。プラカメの元祖なのです。ハーフサイズのペンEEDより少し小さく、圧倒的に軽いのです。

 もうひとつのシャッターですが、このプログラムシャッターは低速から高速までカバーしており、メーターを使わない電子シャッターです。でも、分解してみましたが、特に欠陥のあるものではなく、逆にその時代のものとしては斬新で、ていねいな作りに関心しました。
 
 諸先輩方の誤解をとく一助になればと、すこし長くなりますが、シャッターを中心に今回得られた知見をご報告致します。

 退屈な話なので、読み飛ばして頂いて結構ですが、
                   興味のある方は → ここ

 


 ハイマチックFのレンズ部分のリング類からトップカバーを開放しての分解・清掃などのお手入れのしかたは、
 うりゃを☆さんのホームページ「くう・ねる・あそぶ」「ミノルタ ハイマチック F の清掃の詳細な記録」
 に判りやすく掲載されていますので、ここでは省略させて頂きます。



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分解して見てみましょう。
電子回路は、レンズボードの裏の基板と、CdS受光部にまとめられています。シャッターのメカニズムの心臓部分は、レンズボード裏のガバナと電磁石とチャージ・レリーズレバーで、基板に挟まれています。基板を外した状態で逆さにするとガバナのパーツがポロポロと落ちてしまいます。


ビス3本とEリング2個を外し、レンズボードと基板を分離します


落ちたパーツはこの写真のように復元しましょう

レンズボード裏の4本のビスで、レンズホルダが固定されています。レンズホルダは前方から3本のビスを外すと前後群に分割できますが、中には2枚のシャッター羽根が入っているだけです。


電子シャッターですからメカニズムはとってもシンプルで、全然メカメカしくありませんし、精密感もありません。そのなかでも、機械式のセルフタイマーだけが結構な存在感を示しています。

このシャッターの動作ですが、電磁石が励磁された状態では、シャッターが開くときはガバナが作動してゆっくりと開きます。電磁石が非励磁となると、ガバナは作動せず速やかに閉じます。この非励磁となるタイミングを制御することで、自動露光を実現しています。


 電子回路を見てみましょう
72年という発売時期で、インジケータがLEDでなくマイクロランプというところに時代を感じますが、既に回路の半導体はIC化され、容量と精度の点で新しく登場したタンタルコンデンサーを奢っているのには感激します。
  電子回路のほうも、たいしたものではないので回路図を拾って、動作を推測してみました。でも、IC(三菱M5127)の等価回路が判りません。とにかく、動作に関しては独断で推理してみました。尚、この回路はたまたま調査したハイマチックFがこうなっていたということで、全てがということではありません。

まず、どのようなICなのか中身を推理したか結果だけ記載します。
・マイクロランプを点灯させるための電流を検出・比較するスイッチング回路があ
 る。比較器部分からは、入力端子が引き出されていて、外部の電圧でもスイッチ
 ングでき、これをバッテリチェックに使っている。
・露光量制御に使う電圧を検出・比較するスイッチング回路がある。

露光量制御コンデンサを充電するための電源回路は、おそらく、簡易的な定電圧回路かと思いきや、確認してみると右図のように、全くレギュレートされていません。
しかし、比較器で参照している電圧も電源電圧変動の影響を受けているとすれば、相殺されますし、露光時間は対数ですから実用上の問題はないと思います。要は、代用電池でも、安心して使えるということです。


[自動露光時の動作]
機械的な動作により、フィルムを巻き上げるとシャッターがチャージされ、レリーズボタンが押せるようになります。
・シャッターがチャージされるとSW3の上側の接点が閉じて露光量制御用のコンデンサがシャントされます。
・レリーズボタンを押すと連動したSW1がスライドし、まず、CdSに電流I1が流れ、電流が小さいとマイクロランプが点灯し手ブレを警告
 します。
・さらに、押し込むと、CdSに流れる電流はI2に切り替わります。電流I1は流れなくなるので、点灯していたマイクロランプは消えます。
・シャッターが開き始めると、コンデンサをシャントしていたスイッチSW3の接点が開き、コンデンサは電流I2で充電が開始されます。
・コンデンサの電位が規定の値になったら、電磁石を励磁していた電流が遮断され、シャッターは閉じます。
・尚、シャッターが開くとスイッチSW3が下側の接点を閉じるので、マイクロランプは、20Ωの抵抗を介して接地されて点灯します。
 (スローシャッターで露光中であることを警告)
・露光が終わってシャッターが閉じると、SW3は中立となり上下の接点はいずれも開いた状態になります。

[フラッシュマチック時の動作]
アクセサリーシューに何か差し込むと、レバーが動いて、
・CdS基板とシャッター基板上で連動するスイッチSW2を切り替えます。
・設定したガイドNo.と距離でシャッターの開度が機械的に替わります。
こうして、電気的にも機械的にも自動露光は作動しなくなります。
・CdS基板上のスイッチSW2(1/2)が切り替わると、CdSではなく固定抵抗を電流が流れるので、シャッターは一定時間だけ開くようになります。
・シャッター基板上のスイッチSW2(2/2)が切り替わると、SW3のシャッター開閉接点は、シンクロターミナルやホットシューに接続されます。
ということで、ホットシューカバーなど差し込んじゃダメですね。逆に、シューに何か差し込まないとシンクロターミナルは活きません。

[バッテリチェック]
巻き上げに関係なく、バッテリチェックボタンBCの接点を閉じて、マイクロランプの点灯により電池の容量を確認することが出来ます。

[その他]
・自動露光時の電流は、45mA程度流れます。容量の大きな(内部抵抗も小さい)電池を使うのもうなずけるところです。
・電源電圧の変動に対する影響は、ある程度考慮した回路設計になっているようで、2.6〜3.0Vでは、動作は安定しています。
・暗いところでシャッターを切ると、露光の精度こそ期待できませんが、30秒以上閉じません。
・使用されているCdS素子は、非対称のペア受光素子で、広い測光範囲を意図したものが使われています。

基板は、ベークですが、パターンに全て金メッキをした、たいへん豪華な作りです。接点のパーツも金メッキしてあり、セイコーのたいへんな意気込みを感じます。

 3個の高抵抗をチャタリング防止、パスコン用のコンデンサと勘違いしていましたので訂正致します。(2003・04・07)


 考えられる問題点
まず、あまりポピュラーでない大容量の水銀電池の型番を指定せざる得なかったことに起因しますが、電池からの腐食性ガスの発生により、配線や接点の腐食の進行しやすいことが懸念されます。
 → 配線交換、接点の交換か清掃

レリーズ連動のスイッチSW1にゴミが滞留しやすい構造である。
 → 分解して清掃

当時としては、容量と精度の点で新しく登場したタンタルコンデンサーを使用したことに起因しますが、コンデンサーのリーケージが増大して、オート不良を発生する可能性があります。私は、ジャンクでも程度の良いものを選びますし、この2台だけですので、この事例の経験はありません。
尚、容量は1.5μFと2.5μFと、2台で違っていました。現品のカラーコードなどで判断します。
 → 代品に交換します。個人的にはタンタルよりセキセラが安心だと思います。(70年代初頭にはμFオーダーのセキセラはありませんでした)


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